23区での地域特性データから地価の将来予測(3/4)

供給側要素 -築年数- を用いて住宅のコーホート的な面より捉えてみる

これまで世帯数、人口といった、住宅における需要サイドのほうからの将来予測について説明してきましたが、今度は供給側の視点より将来の予測について考えていきたいと思います。
供給サイドのほうを規定するものとしては、まず現に存在している住宅があり、それに対し着工・完成に伴い新規供給の住宅が加わることとなり、また滅失に伴い減ることとなるものもあります。また居住者がいた住宅が、転居・死亡等に伴い空き家となるものもありますし、また空き家だったところに居住者が入居するものもあります。この一連の流れをサイクルとして示すと、
着工・完成 → 居住者のいる住宅 ↔ 空き家 → 滅失
のようになると考えられます。
供給サイドのなかでの着工数と滅失数については、表③と図⑤で示している通りですが、ここにおいては、居住者のいる住宅について、建築年数を経るとどの程度空き家や滅失となっていくのか、を見ていきます。以下の表⑭は、「住宅・土地統計調査(総務省)」にある、住宅の建て方別・構造別の4つの区分における、5年毎における住宅数の変化を示したものです。なお、建築時期別でのグループを一種のコーホートととらえ、居住している住宅数の変化をグラフに示すと、戸建て住宅(木造)、戸建て住宅(非木造)については、以下の図⑮、⑯のようになります。図中にはあわせて、空き家数の変化の状況も示しています。(共同住宅(木造)、共同住宅(非木造)については、少し先のところで掲載させています。)

⑭ 建築時期別での居住住宅数

⑮ 建築時期別の居住住宅数及び空き家数 - 戸建て住宅(木造)

⑯ 建築時期別の居住住宅数及び空き家数 - 戸建て住宅(非木造)

 

戸建て住宅エリアにおける地価は今後も引き続き下落か

戸建て住宅(木造)に関して、1980年以前の建築時期となっている4つの“コーホート”の合計においては、1998年の約52万戸から2013年においては約34万戸と、15年の間に約18万戸減少しています。また1981~1990年の建築時期のものは約2万戸の減少で、1991年以降に建った住宅では滅失や空き家となるものは基本的に少ないであろうと考えられることから、この約20万戸(18万+2万)が、滅失となったかあるいは空き家数の増に振り替わったことになると考えられます。
なお、滅失及び空き家数の増加分は、そのほとんどが1980年以前に建てられた木造住宅が占めていることになっています。ちなみに、1980年以前に建てられた住宅は、大部分が建築から40年以上経過したものとなっています。また1981年~1990年に建てられた住宅も、その中でも古いものは既に建築して30年を過ぎており、今後はこの“コーホート”における住宅においても、滅失あるいは空き家となるものがどんどん増えていくものと考えられます。
また、1998年における戸建て住宅(木造)の建築時期別住宅数でわかるように、1971~1980年のコーホートにおける数が、他の例えば1981~1990年のものと比べても、特に多くなっています。これは23区においては、この時期に多くの戸建て住宅が建てられたことを示すものであり、こうした時期に住宅を取得した年齢層は、現在70~80歳代とかになっている人が多いと考えられ、今後この年齢階層における死亡等による減少数が拡大していくと予測されることから(表⑪中の「75歳以上での減少数」参照)、今後も1971~1980年の建築時期の住宅における減少が更に続いていくと伴に、また1981~1990年などそれ以降の建築時期の住宅においても、今後空き家や滅失となっていくものが大きく増加していくものと考えられます。
そうした住宅においては、滅失により更地となった後、戸建て住宅向けの用地等として、新たに供給されていくことになっていくものもあるでしょうし、また空き家や空地あるいは駐車場などの状態が続いていくものもあることと考えられます。なお、戸建て住宅の需要を捉えるにあたり、戸建て住宅における住宅数の変化や着工数でも見たように(「23区での地域特性データから地価の将来予測(1/4)」中の表③、図④、⑤参照)、ここ15年の間供給がそれほど伸びがない状況であり、また世帯数の予測においても、戸建て住宅の入居者層となるであろう「二人以上世帯」の数は、今後はほぼ横ばいの状況からその後は減少していくとの予測となっていることもあり、戸建て住宅の需要は現在と比較して縮小していくのではと考えられます。先程見たように、今後空き家や滅失となるものが増加することで、戸建て住宅向け用地の供給は増えるのに、需要が減少していくとの状況となれば、戸建て住宅向けエリアの地価は必然的に下落傾向にならざるを得ないのではないかと考えられます。

 

マンション向けエリアの今後の予測は
 ~ 供給サイドにおける各“コーホート”の動向から捉えてみる ~

次に共同住宅について見ていきます。共同住宅(木造)、共同住宅(非木造)について、建築時期別での“コーホート”での、居住している住宅数の変化を示したものが以下の図⑰、⑱です。図中にはあわせて、空き家数の変化の状況も示しています。

⑰ 建築時期別の居住住宅数及び空き家数 - 共同住宅(木造)

⑱ 建築時期別の居住住宅数及び空き家数 - 共同住宅(非木造)

共同住宅(木造)は、高度経済成長期に多く建てられたいわゆる木賃アパートも含む、木造アパートのことであり、1980年以前に建てられた4つの“コーホート”の合計は、1998年にあった約36万戸から2013年には約16万戸と、約20万戸もの大きな減少となっています。また1981~1990年に建てられたそれほど古くないものでも、1998年から2013年の間において約23万戸から約13万戸となり、約10万戸減少しています。よって1990年以前に建てられたものは、合計で約30万戸もの減少となっています。ただ2008年から2013年の間のみでの変化を見ると、1990年以前に建てられたものでの減少数が約3万戸と、減少数がかなり小さくなっていることから、後で詳しく述べますがこれは着目すべき点ではないかと考えられます。
一方、共同住宅(非木造)のほうは、1970年以前に建てられたものは相対的に少ないものの、1970年代以降は、非常の多くの賃貸あるいは分譲も含めたマンションが建てられています。1998年において、居住者のいる住宅数としては、1970年以前に建てられたものが約26万戸であったのに対し、1971~1980年の間に建てられたものは約45万戸あり、また1981~1990年にかけては約68万戸と大量の住戸が存在しています。2013年までにこれらの住宅数がどのように変化したかをみると、1980年以前に建てられたものは、1998年の約72万戸に対し2013年は約65万戸と、約7万戸しか減少していません。このように、共同住宅(木造)のほうとは異なり、築年数が経過しているものでも、居住者のいる住宅から空き家や滅失となったものの数は、共同住宅(非木造)のほうがかなり少ない状況であることがわかります。ちなみに1998~2013年の間での変化として、1980年以前に建てられたもので、空き家あるいは滅失となったものの割合は、共同住宅(木造)のほうが約56%と半数以上となっているのに対し、共同住宅(非木造)のほうは約9%と非常に少なくなっています。
これは、共同住宅(木造)のほうが、1970年以前に建てられたような古い建物が割合として多かったこと、また木造の建物は一般的に耐用年数が30年程度と短い、などがその理由として考えられます。非木造の建物ほうは、一般的に耐用年数が50年程度とされていることから、1970年に建てられた建物でも2020年までは耐用年数内にあることとなります。
このように1998~2013年の間で、1980年以前に建てられた居住者のいる住宅数の変化として、共同住宅(木造)のほうが約20万戸の減であるのに対し、共同住宅(非木造)のほうは約7万戸しか減となっていないことから、共同住宅で滅失となっているものの大部分は木造のものとなっています。また、非木造のものについては、耐用年数がまだ経過していないことの他、木造に比べ建物解体のコストが大きくなることなども、滅失数が少ない要因になっているのではと考えられます。
なお、木造、非木造あわせた共同住宅における滅失数は、1998~2002年、2003~2007年、2008~2012年の間でそれぞれ約17万戸、約11万戸、約3万戸と、最近大きく減少してきています。この要因としては、共同住宅(木造)において、1970年以前に建てられたような古い建物の数自体が減ってきていることは、その理由の1つであると考えられます。また、近年の23区への人口流入量の増大が、木造アパートや古い非木造のマンションなど、これまで借り手がなかなかつかなかったような住戸においても、需要の増加により住み手が見つかる状況となり、とりあえず取壊す必要性がなくなった、などといったことも起こっているのかもしれません。共同住宅(木造)の空き家数は減少傾向にあり、また共同住宅(非木造)における空き家率も低下傾向にあることは、こうした状況を説明することになるかもしれないと考えられます。
共同住宅(非木造)は、全体の戸数が1998年の約211万戸から2013年には約341万戸となり、約1.62倍と大きく増加していることもあり、空き家数も1998年の約26万戸から2013年の約39万戸と約1.5倍に増えていますが、空き家率は12.4%から11.4%に低下しています。戸数の増大は、先程も触れたように23区への大量の人口流入が継続しており、賃貸及び分譲も含めたマンションに対するニーズが大きくなっていることからで、この15年間で約130万戸と膨大な供給がなされているにもかかわらず、それを凌ぐような需要があり、それが空き家率の低下にもつながっていることとなります。

 

(「23区での地域特性データから地価の将来予測(4/4)」に続く)

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