23区における地価変化と地域特性の関係(3/3)

戸建て住宅地エリアは価格が戻らず、マンション向けエリアは価格が上がっている理由は?

2007~17年においてはおしなべて、戸建て住宅地エリアは価格が下落し、マンション向けエリアは価格が上昇していますが、以降においては、こうした地価の変化がどういう理由からもたらされると考えられるのか、について触れていきたいと思います。

理由1: 利便性の良い立地がより高い評価を受けるようになった

マンション向けエリアのほうがより価格が上がっている理由としてまず考えられるのは、先程も少し触れたように、利便性の良い立地を求める人が相対的に増えているのでは、という点です。以下の図⑨は戸建て住宅地エリア+マンション向けエリアにおける地価の変化率に、鉄道駅から500mの圏域を重ね合せているものです。

 ⑨ 戸建て住宅エリア+マンション向けエリアでの地価変化率と駅500m圏

駅500m圏外では下落率大
この図で見てとれるように、駅500m圏内にある交通利便性の良いエリアにおいては、上昇しているないしは下落率がそれほど大きくないところが多いのに対し、駅500m圏外のエリアにおいては、下落率6%以上のものが大半を占めています。
なお、地価と駅からの距離との関係については、基本的に駅に近いところのほうがより高い地価となっていることは、言うまでもありません。これまで述べていますように、駅に近いエリアのほうが、より上昇している箇所が多い、ないしは下落率が小さいということで、もともとある地価の差がますます大きく広がっている、ということがここでお伝えしたいことです。

2007~17年: 駅からの距離 ∝ 地価下落率
なお、戸建て住宅エリアにおける地価変化率と駅からの距離の関係を、数値上にても検証を行ってみるべく、回帰分析を行ってみました。分析にあたって、そもそも地価には、指定されている容積率や前面道路の幅員、またその土地の規模や形状等、様々な要素が影響を与えるものであることから、これらがなるべく同等に近い地点を取り上げることで、より距離との関係が明確に出せるようにしました。その結果を相関図として示したものが以下の図⑩です。回帰分析における決定係数は0.36でしたが、地価決定には非常に多数の要因が絡むものであることから、直近10年(2007~2017年)における地価変化率と駅からの距離との関係性は、高いものであったと言えると思います。

1997~2007年: 駅からの距離 地価下落率
一方、同じ地点を対象として、1997~2007年における相関図を示したものが図⑪のほうです。これを見てわかるように、地価変化率と駅からの距離とは明確な関係性があるとは言えないレベルでした(回帰分析における決定係数は0.10)。地価変化率のばらつきが駅からの距離との関係性が薄いのは、先述した「西高東低」のように、地価変化率が主にエリアによる差に起因するものであったことから、と考えられます。

 ⑩ 地価変化率(2007~2017年)と駅からの距離との関係

 ⑪ 地価変化率(1997~2007年)と駅からの距離との関係

 

理由2: 近年における賃貸マンション、都心部における分譲マンションの伸び

以下の図⑫は、2007~2017年の期間の対応する(収集可能であったデータの関係上、23区内ではなく東京都内でのものとなり、また2016年度までのものとなっています)東京都内における、持家、分譲の一戸建て住宅、分譲マンション、賃貸住宅といった、種類別の住宅着工戸数を表したものです。

 ⑫ 種類別住宅着工戸数(東京都全体 2007~2016年度)

住宅着工数: 分譲・賃貸マンションは増
これからわかるように、賃貸マンション等のカテゴリーである賃貸住宅の戸数が近年大きく伸びており、また分譲マンションは戸数自体はそれほど明確な伸びはないものの、ここ数年は都心部での分譲マンションの戸数はかなり増えています。

住宅着工数: 戸建て住宅は減
一方で、持家の着工戸数は減少傾向で、このカテゴリーとしての自己居住用での建替えや新築が減っている状況となっています。また、分譲の一戸建て住宅については、多少変動はあるものの、ほぼ横ばいの状況となっています。なお、この分譲の一戸建て住宅については、主に不動産会社が分譲する建て売りあるいは売り建ての住宅であり、近年の傾向としては、敷地面積は小さめであるものの建物を3階建てにすることで床面積を確保した、比較的利便性の良い立地にあるものが多くなってきています。

駅近はニーズ大、駅遠はニーズ小
これらのデータからすると、そもそも賃貸マンションは利便性が良い立地であることへのプライオリティが高いこと、分譲マンションでは都心に近い場所での立地が増加していることなどで、これらの住宅カテゴリーが選好することとなりやすいマンション向けエリアにおいて、地価が上がることにつながっている、といった構図になっているのではと考えられます。また、持家のカテゴリーにある住宅は、戸建て住宅エリアにおいて多く存在すると考えられることから、持家の着工戸数が減少傾向にあるということは、戸建て住宅エリアにおける住宅需要が少なくなってきており、それがそのまま地価にも反映され価格が下落しているところが多くなってきているのでは、と考えられます。

補足:1997~2007年と2007~2017年での地価変動の様子が異なる理由は?

では、1997~2007年の間において、何故地価の変動の様子が2007~2017年の間と異なっていたのか、その理由についても検証してみたいと思います。収集出来たデータだけでは、あまりはっきりしたことは結論づけられなかったのですが、以下の図⑬にあるように、東京都内における住宅着工総戸数は、リーマンショックの直前の2007年頃を境として、かなり差がある状況となっています。(2006年以前は、分譲マンションと分譲一戸建の合算データしか得られなかったため、図⑫と⑬での凡例は若干異なっています。)

 ⑬ 種類別住宅着工戸数(東京都全体 1997~2016年度)


1997~2006年は住宅ニーズが大であった
この図を見てわかるように、1997~2006年度においては、15~19万戸/年 程度であった着工戸数が、2007~2016年度においては、10~15万戸/年 程度とかなり縮小してきています。

2007年以降、大きな変化が
2007年を境に大きな変化が起こっていますが、これには以下の2つの外的要因も働いていると考えられます。まず2007年には、いわゆる姉歯事件に端を発した建築基準法の制度改正が行われました。これにより建築確認における構造計算の厳格化が導入されたことに伴い、住宅着工件数が激減することとなりました。また2009年における戸数の落ち込みは、2008年秋に起こったリーマンショックによりもたらされたものでした。なおこうしたショック的な要素は、引き続きその後の住宅の需要と供給の構造自体にもある程度影響を及ぼしているものと考えられます。
ということで1つの仮設ですが、2007年以前は住宅の需要と供給が現在のレベルよりかなり旺盛で、そのニーズを満たすために、戸建て住宅エリアにおいてもマンション向けエリアに引けを取らない需要と供給が発生していたことから、両エリアでほぼ同程度の地価の変動となっていたのでは、ということが考えられます。なお、リーマンショック以降は全体のニーズが縮小したこともあり、選好度が相対的に低くなった戸建て住宅エリアのほうは、地価が下落しやすくなったのでは、ということです。

 

(おわり)

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です